樹状細胞活性化作用について検証
方法
骨髄由来樹状細胞(BMDCs)に対して、アスコフィランの添加による影響を評価しました。7)
結果
樹状細胞の活性化の指標として細胞の形態を観察した結果、アスコフィラン群では添加から24時間で細胞
が突起を伸長させました。(図1)(この他、細胞表面抗原などから樹状細胞や免疫細胞の活性化を確認しました。)
図1 試薬を添加した際の樹状細胞画像
PBSの添加では形態を変化させませんでした。
アスコフィランの添加では、突起を伸長させるよう
に形態を大きく変化させました。
(白色矢印:樹状突起)
補足
樹状細胞(Dendritic cells:DC)
免疫細胞の一種であり、病原体やさまざまな物質による刺激を他の免疫細胞に伝達します。
樹状細胞は生体内に広く分布しており、免疫の監視、司令塔として働いています。病原体や異物を未熟な樹状細胞が取り込むと、活性化、成熟し、抗原としてそれをT細胞などに提示する機序が考えられています。
図2 樹状細胞のはたらき
NK細胞活性化作用について検証
方法
NK細胞活性が低めの40~59歳日本人男女12名に対して、アスコフィランHS配合サプリメント摂取による免疫への影響を評価しました。試験は二重盲検のRCT法により行いました。8)
アスコフィランHS群は有効成分として1日あたり「アスコフィランHS」100mgを、プラセボ群は有効成分を含まないカプセルを摂取しました。摂取期間は8週間とし、NK細胞活性、血清中サイトカインを免疫活性の指標として評価しました。
結果
NK細胞活性と血清中サイトカインであるインターフェロンγ(IFNγ)、インターロイキン12(IL-12)を比較した結果、アスコフィランHS群では摂取8週間後でそれぞれ有意な増加が認められました。
それぞれの値は0週目の値を100%として計算して
います。摂取8週間後の血清中サイトカイン濃度は、
プラセボ群では有意差が認められなかったものの、
アスコフィランHS群 ではそれぞれ0週目に比べて
有意に増加しました。
アスコフィランHS群 のNK細胞活性はプラセボ群
に比べて有意に増加しました。
図3 血清中サイトカインとNK細胞活性
補足
NK細胞(Natural Killer 細胞)
免疫細胞の一種であり、自然免疫の本体とも言われる細胞です。全身をめぐりながら、がん細胞やウイルスに感染した細胞を認識し攻撃をします。そのため、この細胞の活性が免疫の指標の一つとしてよく用いられています。
サイトカイン
サイトカインは免疫系の細胞から分泌されるタンパク質で、細胞から細胞へと情報を伝達し、活性化・抑制化を制御するために必須な生理活性物質です。この試験では、NK細胞に関連するインターフェロンγとインターロイキン12を調べています。
抗肺炎作用
目的と方法
アスコフィランHSが腸管の樹状細胞活性化を介してNK細胞を活性化し、低下した免疫を改善する可能性が示唆されました。NK細胞は自然免疫において重要な役割を果たしており、NK細胞の状態が良好でなければ、免疫力が低下すると考えられます。
そこで、アスコフィランHS摂取による感染症への効果を検証しました。マウス30匹《各群10匹》に対して、肺炎球菌 Streptococcus pneumoniae を感染させ、アスコフィランHS経口投与による感染性肺炎への影響を評価しました。9)
このマウスは細菌の接種7日前から接種後14日目までの期間に、アスコフィランHSを167mg/kg体重(低用量群)、若しくは500mg/kg体重(高用量群)で1日1回経口投与されています。
感染性肺炎への影響を評価するために、肺炎球菌接種後14日目での生存率、肺の組織学的分析、肺中生菌数を比較しました。生存率、肺の組織学的分析では、免疫抑制剤を腹腔内投与して、肺炎が重症化するモデルを使用しました。肺中生菌数の分析では免疫抑制剤を投与していません。
結果
マウスの生存率においては、
アスコフィランHS摂取群では肺炎球菌接種後14日目でも90%以上の生存が確認されました。
さらに、高用量摂取群では肺炎球菌感染マウスのすべての生存が確認されました。(図4:上段左図)
実際に肺の炎症を確かめた組織学的分析では、コントロールマウスの肺が炎症を起こし、肺胞が認められないのに対し、アスコフィランHS摂取群では肺胞を平常時と同レベルに保っていることが認められました。(図4:下段組織写真)
肺中生菌数では、アスコフィランHS摂取群で有意な生菌数の減少が認められました。
特に高用量群では、コントロール群だけでなく低用量群に対しても有意に生菌数が減少しました。(図4:上段右図)
図4 生存率と肺の組織画像
補足
肺炎
肺炎にはその発症原因によっていくつか種類がありますが、この試験は細菌性肺炎をモデルとして実施しています。
このモデルを選んだ主な理由は、日本の死因第五位に肺炎(5.7%)が位置しており、誤嚥性肺炎(3.1%)を含めると死因の約8.8%が肺炎であり、社会的に問題となっていたという背景があります。また、その中でも市中感染で一番多く見られる原因が肺炎球菌への感染です。
細菌性肺炎の発症は、文字通り細菌の感染が原因です。病原体となる細菌が口や鼻から肺に入ると、肺胞に到達して炎症が引き起こされます。特に免疫力が低下していると起こりやすく、高齢者の場合は免疫力の低下に加えて、誤嚥によっても発症しやすいとされています。10)
肺炎球菌
日本の市中肺炎の原因第一位の病原細菌です。肺炎の他にも髄膜炎や副鼻腔炎などの原因にもなります。この細菌は抗生物質への耐性を獲得しつつあるため、重症化しやすくなっています。そうした背景もあり、一部肺炎球菌ワクチンは公費で接種することができます。11)
免疫抑制剤:シクロフォスファミド(cyclophosphamide)
肺炎球菌感染マウスに対して免疫抑制剤を投与しています。この理由は、「免疫力を低下させることで肺炎球菌感染の致死性を高める」ということにあります。この試験ではシクロフォスファミドが使用されています。シクロフォスファミドは細胞核DNAのアルキル化を介して免疫反応を抑制します。
実験デザイン
生存率、肺の組織学的分析の試験と肺中生菌数測定試験の違い
大きな違いは肺炎球菌接種後の日数と、免疫抑制剤の有無です。肺中生菌数測定試験では、接種後の日数を短くし、免疫抑制剤を投与していません。(図5)
図5 実験デザイン
肺胞 (alveolus)
肺の呼吸でガス交換を行うために発達している部分です。気管が肺の中で気管支に分かれており、更に細かく分かれた先に肺胞があります。肺の容積の大半を占めており、呼吸をする上で最も重要な器官の一つです。
抗ウイルス作用
方法
これまでの抗ウイルス研究や報告から海藻由来酸性多糖類には、ウイルス性疾患に対して効果が期待されています。多くの抗ウイルス薬が開発されてきていますが、いまだに安全で効果の高いウイルス疾患治療薬への需要は高いままとなっています。
そこで本試験では、HPV関連ヒト子宮頸部腺ガン由来の細胞(TZM-bl cell)を培養し、HIVとアスコフィラン添加によるウイルス増殖抑制作用、抗ウイルス作用を検討しました。12)
結果
アスコフィランの添加によってウイルス増殖量が抑えられたことが認められました。この結果より、アスコフィランがTZM-bl細胞またはHIVに作用して、ウイルスの増殖を抑制する可能性が示唆されました。さらに感染前のアスコフィラン添加効果が感染後の添加効果に比べて大きいことが確認されましたので、ウイルス感染の初期段階で抗ウイルス作用を発揮している可能性も示唆されました。(図6)
図6 ウイルス増殖量
補足
TZM-bl 細胞
HPV関連ヒト子宮頸部腺ガン由来の細胞です。ウイルスの増殖に応じてルシフェラーゼを産生する遺伝子が導入されているため、ウイルス感染・増殖のアッセイに用いられることがあります。
ウイルス増殖量アッセイ(ルシフェリンなど)
ウイルスの増殖に応じてルシフェラーゼが産生されるTZM-bl 細胞を用いているため、ルシフェラーゼの量を測定します。ルシフェラーゼの測定は、細胞溶解液にルシフェリンを添加することで起こる化学発光の強度を測定することで行います。
また、この試験ではアスコフィラン添加がウイルス感染にどのように作用するのか調べるために、ウイルス感染の前と後それぞれで添加する試験を実施しています。
図7 ウイルス増殖量測定アッセイ
まとめ
アスコフィランHSを1日100mg経口摂取することで、腸管の樹状細胞を活性化し、下がり気味の免疫状態が改善したと考えられます。また、重度の肺炎を発症するモデルマウスでも、肺炎の状態を改善し、生存率を向上させたといえます。ウイルスの感染においては、ウイルス感染の初期段階から添加することで、抗ウイルス作用を発揮している可能性も示唆されました。
参考文献
7) Mar. Drugs., 12, 4148-4164 (2014)
8) FoodStyle 21, 17, 91-93 (2013)
9) Int. J. Bio. Macromol., 154, 1116-1122 (2020)
10) 令和2年(2020)人口動態統計月報年計(概数)の概況、厚生労働省 (2020)
11)成人肺炎診療ガイドライン2017、日本呼吸器学会 (2017)
12)Int. J. Biol. Macromol., 124, 282-290 (2019)